広島の旅 尾道〜大林宣彦監督を偲んで
ロケ地巡りのファンが引きを切らない週末、駅ではロケ地マップを無料で配布してくれていた。
これを見ながら歩いているのは一目でロケ地巡り客だということがわかり、かなりの数だったように思う。
残念ながらそのロケ地マップは残っていないが、その時に買った映画『ふたり』の特性テレカは保存してある。
『ふたり』は“新・尾道三部作”の一作目で1991年の公開だから、たぶん尾道へ行ったのはその頃だったと思う。
どこに泊まったのかも、覚えていない。浴衣着て部屋食だったことは記憶にあるので、日本旅館だったはずだ。
尾道へ来たら誰もが行く千光寺は、標高140メートルで尾道港を一望する大宝山の中腹にある。
ここへは千光寺山ロープウェイが15分間隔で動いていて、多くの人はこれに乗り、帰りは歩いて坂道を降りてくる。
私も例に漏れずまずロープウェイの駅を目指すが、乗る前に目的のひとつがあった。
ロープウェイの山麓駅のすぐとなりにある「茶房こもん」、『転校生』と『ふたり』で使われている。映画にも出てくるここのワッフルは絶品!これは鮮明に覚えている。
ロープウェイ山麓駅から東へ行くと御袖天満宮がある。
そう、この石段こそ転がり落ちて入れ替わる『転校生』のロケ地だ。
転がり落ちる勇気はないけれど、じっと下を見る。(^O^)
男女が入れ代わるという設定はこの前にも後にもいくつもあるが、一夫と一美がレジェンドだと言い切りたい。
そうそう、この神社は菅原道真を祀ってあるので、受験シーズンは受験生で賑わうそうだ。
ロープウェイの終点山頂駅で千光寺公園から眼科の尾道水道を眺め、石碑がならぶ文学のこみちをぶらぶらと歩けば映画で見たシーンが次々と浮かんでくる。
志賀直哉の旧居や文学記念堂などあるが、入らずにとにかく歩く。坂道と家並み、路地で町の雰囲気を味わうのだ。
途中「大林」という表札のかかった立派な家があったが、もしかしたらここは監督のご自宅?などと想像しながら歩くと楽しみが増してくる。
山頂駅からすぐのところ、艮神社脇の路地が、『時をかける少女』で土曜日の実験室を目指し原田知世が時をかけるシーン に使われたところ。
『時をかける少女』はほとんどが竹原市だが、尾道でもこのように一部撮影されている。
そして、『ふたり』で石田ひかりが討ち入りの時に待ち合わせをした神社がここだ。
『さびしんぼう』のロケ地はJR尾道駅の西側が多い。
尾美としのりが演じるヒロキの家は西願寺そのもので、この周辺は映画によく出てくる。
ここの階段にピエロのかっこうをしたさびしんぼう富田靖子が座っている図は、忘れられない。
竜王山霊場はちょっと高いところなので行かなかったが、ここもヒロキがあこがれのマドンナを見ていたり、友達と話すシーンで使われた。
尾道水道をはさんだ向島地区と結ぶ渡船のひとつ、福本渡船に乗ってみた。
『さびしんぼう』と『ふたり』ほかで使われている。
いまは新尾道大橋ができているが、渡船の往来は変わらない。
しまなみ海道のサイクリングが人気だが、新尾道大橋には自転車歩行者道がなく、並行する尾道大橋も歩道が狭いため渡船の利用が勧められているからだそうだ。
そして、2泊3日の最後は『ふたり』で中嶋朋子が事故に遭う海徳寺下の坂道へ。
けっこう登った気がする。
どうということのない道だけど、振り返ると眺めは良い。
そこからもう少し上がってみようかと思ったら、通りがかりのおばさんから「この先には何もないよ」と言われた。
ロケ地マップを持っているからだろう、親切に声をかけてくれたのだ。
こうやって昔の記憶をたどりながら書いてきたら、無性にこれらの映画が見たくなった。
原田知世も富田靖子も小林聡美も、もうお母さん役を演じる時代になったが、あの頃の輝きは忘れられない。
そして、ここまで一貫して見事に"少女"を描いた映画監督はほかにいないだろう。
撮影所の編集室に伺ってインタビューしたのは25年も前になるが、その時の優しい目と口調が蘇ってくる。
大林監督作品から多くのことを学ばせていただいた。
久石譲さんとデュエットの「草の想い」(『ふたり』の主題歌)はとても素敵。ラジオ局で番組を作っていた頃、A面の中嶋朋子ちゃんのバージョンより、B面の大林&久石バージョンばかり流していた。
『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』は、大林監督が亡くなった4月10日の公開予定だったが、新型コロナウィルス感染症対策本部において示された方針等に鑑み、公開延期となった。
まだ詳細は発表されていないが、見られるようになったら、絶対にもう一度見に行こう。
合掌。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。